名義貸し 「消費者金融で300万円借りてくれれば1割払う」
■うまい話にのったつもりが…一夜で多重債務者、返済滞りドロン、督促の嵐
「消費者金融で金を借りれば1割もらえる。借りた金は半年で返済するから大丈夫」。そんな話に乗せられて、仙台市青葉区のパート男性(32)は消費者金融から300万円借りて30万円を手に入れた。だが誘った相手が夜逃げ。300万円は借金としてのしかかり、男性は一転、多重債務者になった。そして、そんな若者が周囲に何人もいた…。(荒船清太)
「いいアルバイトがあるんです」
そう持ちかけきた会社の後輩。「僕もやってますから」と話した。
「怪しい」。その場はきっぱり断った男性だったが「最近ちゃんと返済してもらいましたから」。3年以上もつきあっている後輩の言葉に心が揺らぐ。
数カ月後には、宮城県名取市の自称、自動車販売業の男「K」(49)と会った。
人目のつかない駐車場。白い軽自動車に後輩と乗り込む。運転席には金髪のパンチパーマ、ジーンズ姿のK。
話はすぐに“仕事”の段取りに入った。「借金の理由は、車を急いで修理するためと言って」。Kは指示した。
結局、3つの消費者金融から300万円を借りてKに渡した。報酬は1割の30万円。借金も半年後には完済してカードを返してくれた。
1カ月後。またKから電話が来た。今度はふたつ返事で引き受けた…。
◇
怪しい話には裏がある。これが“名義貸し”といわれる手口だ。
借金して金を渡したというより、男性がKに借金の名義を貸したという構図になる。男性の相談に乗る菊地修弁護士によると、Kは300万円をそのまま使い、また別の若者を使って手に入れた金で、この男性の月数万円の返済を続ける「自転車操業」を繰り返していたようだ。
菊地弁護士率いる弁護団に相談にきたのは、学生を含む若者たち。その数は100人を超えた。Kが手にした「借金」は1億円以上だという。
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自転車操業が永遠に続くわけはなく、Kは2月末、突然、自宅から一家で姿を消した。
「返済が滞っていますよ」。督促電話が若者たちに殺到し始めたのはそのすぐ後だ。若者たちの悲鳴が始まった。
だが、仙台市消費生活センターによると「名義“貸し”とは言っても、実際は若者と消費者金融との間の契約。返済する義務のあるのはKではなく若者の方」だ。
若者に借金を押しつけたKは、派手な生活をしていたようだ。「店を5軒ぐらいは平気でハシゴ。金遣いは荒かった」とKと4年のつきあいになる仙台市の男性が話す。「金持ちのぼんぼんだと信用していたのに」。Kに名義を貸して数百万円の借金をした男性も驚きを隠さない。
Kの手口は巧妙だ。菊地弁護士によると「消費者金融の貸し出し審査基準は職業、給料などで決まるから」といって、偽造した給与明細などを若者にもたせていたこともあった。
消費者金融側が給与明細に書かれた会社に電話をしてもKの友人が「はい、○○興業です」と応じたというから手が込んでいる。
パート男性は結局3回借りて、3回目の300万円がKの夜逃げで借金として残った。
「2回目でやめておけばな…」。本音がぽろっと漏れた。
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■若者の被害続発・業者相手に訴訟相談も
怪しい話と分かっていたとはいえ、数百万円の借金は重い。「かといって親にはいえないし…」。そんな若者らの相談に乗るため3月、弁護団が結成された。
仙台市内で開かれた相談会。「あれ?お前も?」「しばらく。やっぱりお前も?」。深刻な事件なはずが、雰囲気はちょっとした同窓会。あるいは学校で悪さをして呼び出されて校長室の前で鉢合わせした学生という程度。「知り合いの知り合いの知り合い」からうまい話が広がった様子がみてとれる。
実は、弁護団が訴える相手は「K」ではなく、借りた先の消費者金融会社。弁護団を結成した菊地修弁護士は「若者は被害者。若者がそんなに金を払えないのはわかるはず。個人情報を照会すれば借り入れの状況も分かる。若者は厳正な審査をしない会社の被害者」と説明する。
もちろん大手消費者金融会社は否定する。「個人情報が更新されるのは1日の営業終了後。その日のうちに借りられてはわからない」。いくら借金があっても、月数万円の返済が滞らなければ、貸し出しを断る理由はないともいえる。
弁護団のひとり、鎌田健司弁護士の狙いはこうだ。「グレーゾーン金利を指摘すれば、だいぶ債務が減額できる」。
実際に平成12年に同様の名義貸しで首謀者に実刑が言い渡された事件では、元本の約6割まで支払いを減額することにで消費者金融会社と和解している。「債務減額に加えて前回のような長期戦に持ち込めば、同じぐらいの割合で和解できるかも」とは鎌田弁護士の読みだ。
若者側は、借金を背負ったままというわけにもいかず、弁護費用は最低数万円。6割とはいっても、かなりの返済額。「どうしてこんなことを…」。相談会では親らしき人の声も聞こえていた。
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■もう1人の被害者… ため息が意外なところから聞こえてきた。
「もう本当に勘弁してほしい」と語るのはKの実家のある宮城県名取市の、Kと同姓の主婦。「そんな人は知らないというのに、名字が同じというだけで、何人も若い人が押しかけてきた」
夜逃げの現場を見たという近所の同姓の男性も同じ経験をした。「トラックに荷物を積んでいるのが見えた。何かと思っていたが数日したら姿が見えない。それからほどなく若者らが大挙して押しかけてきた」
Kから金を取り返そうと、名義を貸した若者らが実家に飽きたらず、周辺の同姓の自宅まで押しかけたようだ。1週間後には、それも終わったようだが、同姓というだけでとばっちりもいいところ。
誰が一番の被害者か。Kを知る別の男性に聞いてみた。
「Kには3月卒業の中学3年の娘がいるはず。卒業、入学を目前に夜逃げした娘さんのことを考えると…」。被害は家族にまで及んでいるのかもしれない。
(2007/04/11 03:44)
(fuji sankei business)